バンコク生まれ、ロンドンの音楽カルチャーに育てられたpamiは、タイ語・英語・日本語の3言語を自在に歌いこなすアーティスト。彼女の音楽には、多言語性と感情の透明さ、そしてジャンルをまたぐ自由な感覚がにじんでいる。最新シングル「candydate」では、甘さと焦がれるような気持ちを、軽やかなポップロックのサウンドに溶け込ませた。
Zoomでつないだこのインタビューでは、「candydate」の制作背景をはじめ、アニメの思い出、日本への愛着、そして“インディーズであること”について語ってくれた。

1. About You
― 音楽を始めたのはいつですか?
歌うことから始めたのは5〜6歳くらい。日本のアニメソングをよく歌ってて、言葉はわからなかったけど耳で聴いたものをそのままマネしてた。だから、ある意味日本語が最初に歌った言語だったと思う。
その後、3〜4年前に本格的に曲作りを始めた。ロンドンに行って、ソングライティングや音楽制作を学んだのがきっかけだった。
― 好きなアニメはありますか?
漫画もすごく好きで、家には大量の本があった。だからひとつに絞るのは本当に難しいけど、ずっと好きで集めてたくらい。
― よく聴いていたアーティストや、今ハマっている人は?
最近はGracie Abramsをよく聴いてる。アメリカのシンガーソングライターで、たぶん今いちばん好き。ついこの前ライブにも行ってきて、初めて彼女のパフォーマンスを観たんだけど、本当にうれしくて、感動した。
― 自分の音楽をどんな人に届けたいですか?
音楽が好きな人、とくに歌詞を大事にしてる人に届いてほしい。自分は歌詞にすごく気持ちを込めているから、そこに共感してもらえたらすごく意味を感じる。
2. About “candydate”
― “candydate”を作るとき、どんなことを考えていた?
この曲は「選択肢のひとつに入れてほしい」っていう気持ちを歌ってる。恋人になりたいとかじゃなくて、ただ考えてもらえる存在でありたいっていう、少し切なくて熱い、ちょっと必死な感じ。でもそれを、柔らかくて可愛く聴こえるようにしたかったから、“let me be a candidate”っていう言葉を、ちょっとキュートに言ってみようって思った。
― “candydate”という言葉に込めた意味は?

“candidate”と“candy”を組み合わせた造語。candidateって言葉はちょっと堅くて大人っぽい印象があるけど、この曲では重くなりすぎてほしくなかった。だから、もっと甘くてソフトな響きにしたくて“candy”を加えた。“candydate”って言うと、ちゃんと意味は伝わるけど、感情に寄り添うようなやさしさと可愛さがある気がする。
― 前の曲よりもポップロックっぽくなっていますよね。それは狙ってやりましたか?
実は“candydate”は“kiss me blue”よりも前に書いた曲なんだよね。みんな逆だと思ってるけど。ライブで盛り上がれて、熱くて楽しい曲を作りたかったのがきっかけ。
自分の音楽ってひとつのスタイルに決めてなくて、ロックのときもあれば、ミニマルやシンセウェーブっぽい曲もある。その時々の気分で動いてる。
でも、もしかしたら将来的には「pamiってこういう音楽だよね」っていうスタイルが見えてくるかもしれないし、あとから全部が繋がって感じられるかも。今はとにかく、自分の感覚を信じてる。
― ロック好きだったって話してたけど、もう少し詳しく教えてください
高校のとき、ONE OK ROCKが大好きで、バンドを組んで彼らの曲をよくカバーしてた。Taking OffとかClock Strikesとか。
Ed Sheeranのライブに行ったときに、ONE OK ROCKがオープニングアクトで出てたから、両方観れてラッキーだった。まさに“一石二鳥”って感じ(笑)。
3. About Japan
― 好きな日本のアーティストは?
YUIが大好きで、CherryとかLife(BLEACHのテーマ曲だったやつ)は自分の成長期にすごく影響を与えてくれた。声が本当にピュア。
宇多田ヒカルも大きな存在。あとは昭和のシティポップもよく聴いてて、山下達郎が好き。中森明菜もすごく好き。彼女の曲は深みがあるね。
― あなたの曲の中には、シティポップっぽい要素もあるよね?
あえて狙ったわけじゃないんだけど、“pity dirty”がちょっとそういう雰囲気になった。最初はR&Bだったけど、プロデューサーと一緒にミニマルな方向に仕上げていったら、自然とヴィンテージ感のある日本っぽい感じが出てきた。MVを観て「めっちゃ日本っぽい!」ってコメントしてくれた人もいた。
― 日本に来たとき、なにか楽しかったことある?
日本のごはんが大好き。ついさっきもスシローに行ってきた(笑)。
川崎のCLUB CITTAでライブしたときも、終わってすぐ寿司を食べに行った。日本に行くと、いつも食べすぎちゃうけど、全然気にしてない。日本では何食べてもおいしいし、何でも食べられる。
― 日本で音楽活動をしてみたいと思う?
もちろん! SUMMER SONICに出られたら最高。あのフェスって夢みたいだし、すごく才能あるアーティストがたくさん出てるから、自分もそこに参加できたら嬉しい。
4. Artist Life in Asia
― タイの若い音楽シーンは今どんな感じ?
すごく自由。ジャンルをミックスしたり、言語を切り替えたり、ボーダーがどんどん薄くなってる。私もその流れに乗っていきたいと思ってる。アジア全体が今すごく開かれてきていて、ワクワクしてる。
― アジアのインディーシーンの未来についてどう思う?
今って、型にはまらないアーティストに注目が集まってる。インディーって、ただ“規模が小さい”とか“無名”っていう意味じゃなくて、“自分らしくいること”なんだと思う。特に東南アジアではいろんなムーブメントが起きていて、すごく面白いよ。
5.これからの展望
― アーティストとして、次にやってみたいことは?
今、初めてのアルバムを制作してるところ。もっとミニマルなシンセとか、柔らかい質感の音とか、ギターとかも取り入れていくつもり。優しさと強さ、そのあいだにあるような感情を探してる。
― 出てみたいフェスや場所は?
いちばんの夢はCoachellaに出ること。そこを目指してる。
あと、SUMMER SONICも。日本での大きな目標のひとつ。あのラインナップの中に自分が入れたら、ほんとに嬉しい。

pamiの物語は、幼いころに口ずさんだアニメソングから始まり、今では国境を越えて世界に広がっている。
「candydate」のような熱を帯びたポップロックから、静かに寄り添うR&Bまで、彼女の音楽は感情の全域を映し出す。
let me be a candydate──その歌声の先に、彼女の未来がもう光っている。