K-POPの華やかなイメージが世界を席巻する中、ソウルのアンダーグラウンドシーンでは、それとは真逆の“むき出し”でノイジーなサウンドが密かに育まれている。その最前線にいるのが、アートパンクやノーウェーブ、ノイズといった要素を縦横無尽に行き来しながら、鋭く洗練されたビジュアルと共に活動するバンド、PCRだ。
今回WEEAVEでは、ボーカル兼PCRの創設者であるKiminに独占インタビュー。バンドの成り立ちや名前の由来、そしてこれからの展望について語ってもらった。
Q1. まずは自己紹介をお願いします。PCRはどうやって始まったのでしょう?

Kimin:
僕らはもともと、それぞれ別のバンドをやっていました。
今のPCRメンバーであるYoungwon(ドラム)とMinjae(ギター)に出会って、ノーウェーブやアートパンクのような新しいバンドをやろうという話になったんです。
いわゆる「バンドっぽい音」に飽きていたというのもあります。今って、“ジャンルレス”を名乗るバンドが多いじゃないですか。オルタナティブ云々って。でも僕からすると、そういう音ってどれも似ているように感じてしまって。だったらむしろ「ジャンルありき」で、ノーウェーブとかノイズとか実験音楽、アートパンクにフォーカスしたいって思ったんです。それがPCRを始めた理由ですね。
Q2. PCRというバンド名には、どんな意味が込められているのでしょう?

Kimin:
韓国語で「파충류(パチュンリュ)」って言葉があるんですが、これは“爬虫類”って意味なんです。トカゲとかヘビ、ワニとか。そこからP・C・Rって音を取って、名前にしました。日本語の響きにも近くて気に入ってるんですよ。
あと、爬虫類の歯って野性的で攻撃的な感じがあるじゃないですか。そのイメージもバンドの方向性に合っていて。三文字の名前って、それだけでかっこいいですしね。DNAとかCANみたいな。
Q3. 2025年初めにファーストEP『Kahwa』をリリースしましたよね。どんな作品でしたか?反応は?
Kimin:
まだ本当に生まれたばかりのバンドって感じで。7ヶ月前に初めてのEPを出したばかりです。でも予想よりずっと反響があって、「これは新しいタイプの韓国音楽だね」なんて言ってもらえたりして、本当に嬉しかったですね。
Q4. その半年後にはセカンドEP『People Come Raging』も出しました。1作目と比べて何が変わったと思いますか?

Kimin:
『Kahwa』では“曲”を作っていた。でも2作目では“音”そのものを作ることに集中した。それが一番大きな違いです。
実験的なノイズやサンプリングも取り入れました。1作目はもっとメロディや構成に比重を置いていたけど、2作目はサウンドの質感や攻め方にフォーカスしています。次の作品ではさらにいろんな要素に挑戦して、もっと…“進化”させたいですね。
Q6. アートパンクやノーウェーブと評されるPCRの音楽を、自分自身ではどう説明しますか?
Kimin:
僕にとっては、ある種の“カルチャー”なんです。韓国ではこのジャンルは全然知られていなくて、なんというか、暗い洞窟みたいな存在なんです。誰もその中を見ようとしない。
だから、僕はその洞窟に光を当てたいと思ってる。見えない場所に視線を向けるというか。ちょっと抽象的だけど、僕にとってのアートパンクやノーウェーブは、そういう存在なんです。
Q8. Hedi Slimaneっぽいファッションも印象的です。服のインスピレーションや影響を受けたデザイナーはいますか?

Kimin:
正直、まだファッションについて語れるほど知識があるわけじゃないです。ただ、見た目がかっこいいもの、美しいものが昔から好きで。まだ“本当の意味でファッションが好き”と言えるには勉強中って感じです。
でもHedi Slimaneの作品は大好きですね。彼のミューズだったPeter Dohertyもすごく好きで、彼のバンドThe Libertinesも昔からよく聴いています。
今年4月には、Libertinesと同じステージに立つ機会もありました。年齢は重ねてるけど、ファッションも佇まいもすごくクールでした。
たぶん、そういうアーティストやデザイナーたちの影響は、自然と僕たちのビジュアルにも表れていると思います。
Q9. 今のソウルのインディ/DIYシーンはどう見えていますか? 親しいアーティストや会場などはありますか?
Kimin:
韓国のインディシーンって、昔からずっとあったとは思います。でも、正直いまの全体像をちゃんと把握してるわけじゃないんです。
というのも、いわゆる「インディのライブハウス」を回っていたときに、どこか似たような雰囲気が多くて。そこに自分たちが埋もれたくなかったんですよね。
だから最近は、ギャラリーや廃墟ビルでライブをやったりして、新しい場所に可能性を探しています。
親しみのある会場でいうと、ホンデの「Senggi Studio」やシンチョンの「Babydoll」とか。音響がいいのはもちろん、空間の雰囲気がすごく特別なんです。
あと、僕自身が「Happy Heavy Drinker」という小さなカフェをやっていて、そこではインディーロックをレコードで流しています。いわゆる普通のカフェBGMじゃないですよ。
韓国に来ることがあれば、ぜひ立ち寄ってください。コーヒー淹れますよ(笑)
Q10. 今後の予定を教えてください。新作やライブ情報などあればぜひ!

Kimin:
最近、PCRは「ATML(Anything That Makes Light)」という音楽コレクティブに参加しました。南米やベルリン、ロンドンなどに拠点を置く実験系アーティストたちのネットワークで、ノイズやノーウェーブ、ドローン、アンビエントを中心に活動しています。
僕らにとっては、国境を越えて音楽を発信するチャンスだと思っています。自分たちが海外に行くのもそうだし、逆にそのアーティストたちをアジアに呼ぶこともできる。もっと開かれた“越境的”なシーンを作っていけたらと。
それと、12月には日本ツアーをやります!
僕たちがずっと憧れていたZoobombsと一緒に、12月18日から東京、20日に京都、21日に大阪とまわります。
日本の皆さん、ぜひライブで会いましょう!
アイドルの洗練されたイメージが音楽シーンを形づくるこの国で、PCRはその対極にある“ワイルドカード”だ。荒削りで、止まることなく、ひたすら音を鳴らし続ける。日本ツアーとフルアルバム制作を控えた今、彼らは単に「韓国らしさ」に応える存在ではない。PCRは、このシーンが向かうべき“次”を自ら切り拓いているのだ。