
音楽だけでは掬いきれない美意識は、しばしば衣服の選び方にも滲む。WEEAVEの新連載『What We Wear, Why We Wear』は、アーティストの“何を着て、なぜそれを選ぶのか”を手がかりに、その人となりとカルチャーの地層を読み解く試みだ。
記念すべき初回は、2016年結成/東京拠点の5人組、Luby Sparks。英語詞でシューゲイザー/オルタナの系譜を引く彼らから、ボーカルのMurphyErikaとベース,ボーカルのNatsukiに話を聞いた。
Q1. まず自己紹介を。Luby Sparksはどんなバンドですか?

Natsuki: 2016年に東京で結成した5人組です。英語詞で、二人ギター編成のシューゲイザー/オルタナ寄りのギター・バンド。2枚のアルバムと複数のEPを出していて、日本に限らずアジアなど海外でも活動しています。
Q2. 「影響を与えた服」を挙げるなら?
MurphyErika:


母から譲り受けたベルベット(ベロア)のヴィンテージ・ワンピース。
Luby Sparksで初ライブに出たときも着た一着で、衣装というより“儀式”に近い感覚があります。以来、ライブでワンピースを着る自分の核になっています。これは一生の宝物です。
Natsuki:


2本のパンツ。ひとつ目はHedi Slimane期のSaint Laurent/ストライプ・スキニー。高校〜大学の頃に中古で入手。極端に細いので今は温存中だけど、また流れが来たら履きたいです。
もう一本は90年代Hysteric Glamourのピンクのスネーク柄。古着で見つけてから相場が一気に高騰していました。アー写やMVでも着用していて、昨年のHysteric Glamour 40周年イベント出演時も着た思い入れの強い一本です。
Q3. 服にハマった入口は?
MurphyErika: 中学生の頃に『NYLON JAPAN』『GOSSIPS』を読み始めたこと。それと大阪・堀江の古着屋を母と巡った体験。雑誌でイメージを掴んで、古着で確かめる流れができました。
Natsuki: 小6の誕生日にSHIPSでコートを選んだのが転機。“人と違って浮く”感覚が心地よかった。子ども時代からVansを履いていて、そのままスキニー+Vansが自分の“制服”のようになっていきました。
Q4. スタイルの変遷と、通ってきた店

MurphyErika:大阪 〈MINERAL〉、原宿〈faithtokyo〉に通い、近年は〈Curios〉で1900年代のアンティーク・ドレスを探すことも多いです。ライブではドレスにミリタリーやパンク小物をミックスします。
Natsuki: 中学は〈SHIPS ADVANTAGE CYCLE〉のパンク寄りのラインに熱中しました。高校でUKロックに傾倒してスキニー+Vansへ。大学以降は〈BUD〉〈SPROUT 2nd〉〈KINSELLA〉など、原宿周辺の古着屋をメインで周るようになりました。最近はセカンドハンドのゴールドのSaint Laurentブーツも手に入れました。
Q5. 影響源(人物・カルチャー)をいくつか教えてください


MurphyErika: Alice Glass(Crystal Castles)のミクスチャーなスタイルが好きです。Courtney Love、Sky Ferreira、KittieのY2K〜ゴス/グランジ的レイヤリングも。


Natsuki: Franz Ferdinand、Peaceなど2010年代インディー。当時はZachary Cole Smith×Sky Ferreiraのカップル・スナップもよく見ていました。共通項で言えばThe Smiths/The Jesus and Mary Chain/Cocteau Twins/Sonic Youth(Kim Gordon)。Alex Knostの“気負わず自然体でおしゃれ”という姿勢も指標です。
Q6. トレンドとの距離感
Natsuki: 半歩先を読むのが好き。アーカイブを“今”に蘇らせるタイミングを狙い、マス化したら次へ進む。パンツの太さひとつでも少しずつ更新していく感覚。
MurphyErika: 「長く愛せるか」が基準。流行は見るけれど採用は一握り。会話の中で甦る昔のブランドや音源を掘り直すことが多いです。
Q7. いま気になる年代感・再評価したいもの


MurphyErika: 2000〜2015年の配色やグラフィック。ライブではドレス×ミリタリー/パンク小物で揺らすのが気分です。


Natsuki: “インディー・スリーズ(2006年〜2012年頃に隆盛を極めた、ローファイな美学・パーティ文化・DIYスピリットを体現するムーブメント。
TumblrやMySpace全盛期のSNS世代が築いたスタイルで、音楽・アート・ナイトライフと密接に絡んでいる。美的には、「汚いけどかっこいい」「ポーズより本能」という価値観で構成され、グラマラスさや整いすぎたルックとは対照的なもの。)”の空気は再来の気配がありますね。最近はさらに先に進み,2010年代序盤に自分が通ったものが**もう一度気になり始めています。Hediまわり(Dior Homme/Saint Laurent)の名作群の持ち込み方も引き続き考えています。
Q8. ライブハウスに来る人たちへ
Natsuki: クラブには若い人が多くて“特別な夜だから装う”ムードがある。ライブハウスでもぜひ“服で良い日にする”感覚を共有できたら、体験の質が上がると思う。
MurphyErika: ライブハウスは誰にでも開かれている場所。でもちょっとだけ装うことで、お互いにより良い空気**を作れる。そういうカルチャーが広がると嬉しいです。
音楽とファッションは、それぞれが独立した表現でありながら、重なり合うことでその人の輪郭をより鮮明にしてくれる。Luby Sparksのふたりが語ってくれたのは、“ただ着る”ことではなく、自分の感性や背景をまとうということだった。
『What We Wear, Why We Wear』はこれからも、アーティストたちがなぜその服を選ぶのか、そこに宿る美意識やカルチャーの蓄積を丁寧にひもといていく。次回もどうぞご期待ください。