
2024年、音楽の聴かれ方は完全に変わった。
TikTokでバズった楽曲が数週間後には忘れ去られる。Spotifyのレコメンドが進化しても、すべての楽曲が再生されるわけではない。アルバムは「終わった」と言われながらも、一部のアーティストはアルバムを武器にしている。
「音楽消費はデジタル化した」と言われるが、実際は「聴かれ続ける」楽曲と「消費されて終わる」楽曲の分断が進んでいるのが今のリアルだ。
この矛盾をデータとともに紐解き、2024年以降の音楽マーケティングのヒントを探る。
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- TikTokでバズっても「消費されるだけ」—ファンが生まれない問題
TikTokは「発火点」だが、「持続力」がない
TikTokが音楽の発火点になっているのは事実だが、ここでバズった楽曲がそのままロングヒットするとは限らない。むしろ、TikTokでバズるほど「消費されて終わる」リスクが高いというデータも出ている。
データ①: TikTokバイラル楽曲の寿命
• TikTokでバズった楽曲の70%以上が、1ヶ月以内にSpotifyの上位チャートから消える(出典: Chartmetric)。
• 一方で、プレイリストやラジオ経由で広まった楽曲は、2〜3ヶ月以上チャートインし続ける傾向がある。
具体例
✔ Oliver Anthony – “Rich Men North of Richmond”(2023)
TikTokで急速に拡散され、リリース直後に全米1位を獲得。しかし、その後急激にチャートダウンし、数ヶ月で話題に挙がる頻度が極端に低下した。
✔ Noah Kahan – “Stick Season”(2022-2023)
TikTok発のバズがあったものの、その後ラジオやプレイリストにも入り、アルバム全体が聴かれる流れができたことでロングヒット。
「バズらせる」のではなく、「残る」戦略を持つかどうかで、結果が大きく変わる。
今後の戦略
✔ TikTokだけでなく、ロングヒットの場を意識する(ラジオ・フェス・プレイリスト)。
✔ バズった後に「深掘りしたくなる」コンテンツを用意する(MVの裏話、アーティストのストーリー)。
✔ ファンとの接点を増やす仕掛けを作る(SNS交流、コレクション性のあるグッズ展開)。
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- Spotifyのレコメンドは万能ではない—キュレーションの力が再評価される
Spotifyのレコメンドアルゴリズムは進化している。でも、それがすべての楽曲にとって最適な発見経路かというと、そうではない。
データ②: レコメンド vs キュレーション
• SpotifyのDiscover Weekly経由での再生は年々増加しているが、リスナーのエンゲージメントはプレイリスト経由の方が高い(出典: MIDiA Research)。
• パーソナルレコメンドでヒットした楽曲のリテンション率は50%前後なのに対し、エディトリアルプレイリスト経由の楽曲は70%以上(Spotify for Artists)。
具体例
✔ Ethel Cain – “Preacher’s Daughter”(2022)
Spotifyのアルゴリズムだけでなく、インディーメディアや音楽ジャーナリストによるキュレーションが支持を広げた。
✔ boygenius – “the record”(2023)
アルゴリズムだけでなく、Zane LoweやNPRなどのキュレーターのサポートが重要な役割を果たした。
アルゴリズムは入口の一つでしかない。信頼できる「人」によるキュレーションが、ロイヤルリスナーを生む。
今後の戦略
✔ エディトリアルプレイリストへのアプローチを強化する。
✔ 音楽メディアやラジオ、ジャーナリストのサポートを活用する。
✔ アルゴリズム頼みではなく、ストーリー性のあるプロモーションを設計する。
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- シングル時代と言われるけど、アルバムは本当に死んだのか?
「アルバムの時代は終わった」は本当か?
「アルバムの時代は終わった」と言われて久しいが、実はアルバムの重要性が増している現象もある。
データ③: アルバム vs シングルのリスニング動向
✔ シングル単位の再生数は増加(前年比20%増)。
✔ しかし、Spotifyのプレミアムユーザーはアルバムを通して聴く傾向が強い。
具体例
✔ Taylor Swift – “Midnights”(2022)
シングルヒットだけでなく、アルバム全体がストーリーを持っていたため、長期間にわたりリスナーを維持。
✔ SZA – “SOS”(2022)
TikTokでバズった曲も多かったが、アルバム全体の世界観がファンを引きつけ、年間を通してリスナーを維持。
シングルは「入り口」。アルバムは「帰ってくる場所」。
今後の戦略
✔ シングルとアルバムの役割を分ける → シングルは拡散力、アルバムはブランド構築。
✔ アルバムを「体験」にする → アートワーク、映像、特典を含めたパッケージ戦略。
✔ シングルリリースをアルバムの伏線にする。
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結論: 2024年の音楽消費は「一過性」から「帰ってくる仕組み」へ
もはや、バズればOKではない。2024年以降、音楽が聴かれ続けるには、次の3つが鍵になる。
✅ バズの「次」を意識する。
✅ アルゴリズムだけでなく、キュレーションの力を活用する。
✅ シングルだけでなく、ファンが帰ってくる場所を作る。
一過性のヒットで終わるか、「文化」として残るか。この分かれ道を意識することが、2024年の音楽マーケティングの本質になる。