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インタビュー e5 ―ハイパーポップシーンで存在感を増す、 “MODE POP” を掲げる新旗手。

東京の新世代オルタナ/ハイパーポップ周辺で存在感を増すアーティスト、e5。2025年9月24日に1stアルバム『MODE POP』をリリース。先行曲「WUNACOOL」「DIVE JOB」「SPIDER SILK」で描いた世界観が、アルバムとして結晶した。参加アーティストは嚩ᴴᴬᴷᵁ、killwiz、Collie Wave。今回は、制作の動機からシーン観、ファッション観までe5本人に聞いた。

— 新作について。一言で、どんな気分/想いを伝えたくてこのアルバムを作りましたか?

e5:

アルバム・タイトルを『MODE POP(モードポップ)』にしたのは、「モード=最先端の表現」への憧れと、「ポップ=大衆性」のどちらも自分にとって大切だから。今のシーンでは私は“ポップ寄り”に扱われがちだけど、大衆から見れば私の音は“モード”にも映る。その両義性をそのまま掲げたくて、「MODEでありながらPOPである」という意思表明の作品にしました。ジャンルというより“姿勢”の名前ですね。

—「これが書けて、自分でも新しい扉が開いた」と思えた曲はありましたか?

e5:

「DIVE JOB」。新しい手触りのトラックに挑戦しつつ、強いフックを意識して書きました。歌詞には私の入り組んだ思想も素直に落とし込めた感覚があります。仕上がりはポップだけど、内面は結構ディープ。その両立ができました。

—曲順は物語重視?それとも音の流れ重視?

e5:

最初は物語を主軸に設計しましたが、制作が進むほど音の流れも重要になっていって、最終的には“ストーリーとサウンドのカーブが一致する”ように詰めました。ライブで再構築したときにも一本の劇として立ち上がる並びになっているはず。

—今回の制作で“初めてとったリスク”や“新手法”は?

e5:

自作トラックを前半に大胆に置いたこと。私は昔からビートを作るけど、ポップさに踏み切れず“お蔵入り”にしてしまうことが多かった。でも今回は「こういう私も表に出す」と決めて、セルフ・プロデュース比重を上げました。終盤にはサ柄直生さんとの共作トラックも置いて、作品の“モード⇄ポップ”の振れ幅を明確にしています。

—客演/コラボの手応えは?

e5:

今作は3組参加してくれています。日本勢は嚩ᴴᴬᴷᵁとkillwiz、韓国からはCollie Wave。私ひとりだと世界観が主観に寄りすぎるので、各人の解釈が入ることで入り口が増えました。聴く人がいろんな角度から作品に入れるようになったのは大きいです。

09: I AM HERE Feat.killwiz
10:FROG JUMP UCHUU Feat.嚩ᴴᴬᴷᵁ
12:KANTAN Feat.Collie Wave

— 近年のシーンで刺激を受けている動きは?

e5:

ラムコ君(lilbesh ramko)の動きはやっぱり特別だと感じます。タイプビートの消費が加速するなかで、彼は自分の世界観を未踏の方向に押し広げて“消費されにくい”領域を作っていると思います。何度見ても揺さぶられるライブって貴重。

—これから一緒に作りたいアーティストは?

e5:

STARKIDSクルー周りとやってみたい気持ちはあります。あと、さっき名前を挙げた面々とは別に、国内外でいくつか話が進行中です。コラボは“誰っぽくなるか”ではなく“どれだけ自分らしさを拡張できるか”で決めたい。

—ルーツ:音楽にハマったきっかけと、プレイヤーになるまで

e5:

最初は父の影響。父は料理の修行で渡米していた時期があって、帰国後もエルヴィス・プレスリーをずっと流していた。母はEnyaが好き。家のイベントで私が幼い頃から歌って、お客さんに褒められて——という体験が“人前に立つ快感”の原点。

その後、家庭環境の変化で心が内向きになった時期に、ニコニコ動画や『うごくメモ帳』経由でボカロ文化に出会って一気にのめり込んだ。「マトリョシカ」(ハチ/現・米津玄師)や「脳漿炸裂ガール」(れるりり)、そして『カゲロウプロジェクト』(じん)周辺の世界観が“個人的な想いを書いていい”と背中を押してくれたのは大きい。やがてJvcki Waiに衝撃を受けて、オートチューンの使い方やラップの強度を研究しだした——そんな流れです。

—東京という街をどう感じていますか?

e5:

どんどんオシャレになっていく反面、“どこへ行っても同じ景色”という寂しさもある。原宿らしさ、渋谷っぽさの“ノイズ”が薄まっている感覚は少しあるかも。だからこそ、私たちが現場で作る“場の熱”はもっと大切になる。

—現在のクラブ/ライブシーンの変化について

e5:

2021〜23年頃はコアな場所に熱量が一点集中していたけど、今はイベントや発信の手段が増えて、その分“消費のスピード”も速くなった。音楽もファッションも、最先端にすぐアクセスできるから飽和しやすい。だから私自身は“誰かの型に早く寄せてバズる”より、“自分の速度で積み重ねる”を選びたい。

—ファッションは何に影響を受け、どう組み立てますか?

e5:

“人をリファレンスにしない”こと。自然物(珊瑚、虫、魚)やテック、モンスターの色や造形から組み合わせを考える。自分の体型や骨格に合うシルエットを優先して、ジャンル名で括られない装いに落とす。コーデは音楽制作と同じく“編集”の営みなので、参照の仕方で“私らしさ”が変わると思ってます。

—今後の目標と“モードポップ”の拡張

e5:

年内にもう一作まとめたい気持ちがあるし、『MODE POP』のライブも“劇”として磨きたい。“モードポップ”はサウンドのジャンル名というより、発想のジャンル名。だから誰が名乗ってもよくて、同じ志の人が増えていけば最高。フェスは1万人規模のステージに立ちたい。もし呼ばれなかったら、自分でそこに届くイベントを作る覚悟です。

作品情報

e5『MODE POP』— 2025年9月24日リリース。

先行曲
「WUNACOOL」(prod. krynX)/「DIVE JOB」/「SPIDER SILK」(MV Dir. JACKSON kaki)。

ゲスト:嚩ᴴᴬᴷᵁ、killwiz、Collie Wave。

  • 「WUNACOOL」:7月23日先行配信。MV公開。
  • 「DIVE JOB」:8月6日配信シングル。
  • 「SPIDER SILK」:9月10日配信&MV公開(Dir. JACKSON kaki)。

“MODEでありながらPOPである”。e5の言葉どおり、『MODE POP』は線引きを軽やかに跨ぎつつ、個の物語をまっすぐ差し出す。消費の早い時代に、彼女は速度ではなく“姿勢”で勝負する。次に開く扉はどこへ繋がるのか——その歩幅から、目が離せない。