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INTERVIEW|Noridogam(Silica Gel キム・チュンチュ──韓国インディー発「遊び図鑑」ソロプロジェクトと『Truthbuster』ソウル・東京・大阪ツアー

Silica Gel のメンバーとして韓国インディーシーンを駆け抜けてきたキム・チュンチュは、ソロ名義「Noridogam(놀이도감)」としても作品を発表している。子どもの頃に出会った「遊び図鑑」からその名を借りたこのプロジェクトは、フォークや60〜70年代ポップス、サイケデリアの系譜を静かにたどりながら、日常のごく小さな一瞬を、簡潔で、美しく、どこか親密な歌へと変えていく。ソウル/東京/大阪をめぐる “Truthbuster the Tour” を前に、個人的な「遊び場」としての Noridogam がどのように形づくられてきたのか、その歩みと現在地をたどった。

まず最初に、“Noridogam(놀이도감)”という名前に込めた意味と、このプロジェクトを始めた当初に思い描いていた「遊び」について教えてください。

“Noridogam(놀이도감)”という名前は、子どもの頃、いとこの家に遊びに行くたびに目にしていた一冊の本のタイトルから取ったものです。元々は「Asobijukan(遊び図鑑)」という意味のタイトルを持つ日本人作家の本ですが、韓国では 놀이도감(ノリドガム)、つまり「遊びの図鑑」として読まれています。そこには屋外・室内を問わず、さまざまな遊びが図鑑のような形式で収録されていました。

僕が楽器や機材と向き合いながら、一人で自分だけの「遊び」を組み立てていくように音楽を作るやり方は、その本に載っていた遊びととても似ていると感じていて、だからこそこのソロプロジェクトにこの名前をつけることにしました。

Silica Gel での活動でも知られていますが、あえて Noridogam にフォーカスしたとき、バンドと比べて自己表現のどんな部分が一番違うと感じますか。

Silica Gel は、僕にとってはメンバーたち――兄弟と呼べるような友人たち――と20代の頃から一緒に作り上げてきた、メインのキャリアであり人生そのものです。その中で僕は、いくつかの「役割」を担う一員として、ひとつのシステムの一部として参加しています。

一方で Noridogam は、僕自身のごく個人的な表現そのものです。ミュージシャン・キム・チュンチュという人間の考え方や志向性を、よりダイレクトに確かめられるプロジェクトだと思っています。そのぶん、音楽的な「色合い」とは別の次元で、表現に対しても活動の仕方に対しても、あえてぶつかってみるようなチャレンジに対しても、ずっと自由に試すことができていると感じています。

2019年前後のソロリリースから現在までを振り返ってみて、Noridogam にとって「大きな転機」になったと感じる曲や作品、瞬間はありますか。

「무지개(Rainbow)」という曲が、その転機だったと言えると思います。韓国では、この曲が比較的多くのリスナーに知られるようになりましたが、その大きな理由のひとつはミュージックビデオにあると感じています。

とはいえ、「ミュージックビデオこそが一番重要だ」と考えるようになったわけではありません。むしろ、僕自身が好きな「簡潔で、美しく、短い」タイプの曲に対して、大衆のリアクションが思っていた以上に悪くなかった、という手応えを得られたことが大きくて。言い換えると、「自分が好きなものを、他の人にも好きになってもらいたい」という、少しマニアックな自分の趣味に対して、少し自信がついた出来事だったのかもしれません。

それ以来、曲を書くときに自分自身を前よりも信じられるようになったと感じています。

Noridogam の音楽には、フォークや60〜70年代ポップス、サイケデリア的な要素が混ざり合っていると言われることも多いです。ご自身の言葉で、このプロジェクトはどんな音楽的「系譜」に属していると感じますか? また、最近特にインスピレーションを受けているアーティストや作品があれば教えてください。

僕が音楽を聴くときの基準は、大きく分けて次の二つだと思っています。

  1. 何度も繰り返し聴きたくなる曲であること
  2. 自分の音楽にも取り入れてみたい表現方法が含まれていること

この二つの基準のおかげで、実験的な音楽やアヴァンギャルドな作品も好きではあるのですが、最終的にはやはり、ジャンルとしての強度や歴史性を持った、いわゆるレガシーな音楽を探して聴くようになっていきました。だからこそ、いまおっしゃったような「系譜」の話には、とても敏感に耳を傾けています。

最近に限らず継続的によく聴いているのは、当時の日本のミュージシャンたちの作品です。とりわけ細野晴臣さんの仕事と、彼がプロデュースに関わった多くのレコードからは強い影響を受けていますし、荒井由実さんのアルバムからの影響もとても大きいです。そのほか、Steely Dan や The Beatles、Emitt Rhodes といったアーティストも挙げられます。

そうした影響を21世紀的にダイレクトに受け継いでいるアーティストたち――とくにポストパンクや “Haunted pop” 的な文脈の中で、音があまりにアコースティックな方向へ寄り過ぎてしまいそうなところに、もう少し色味を足したいと感じることがあって、その点では Ariel Pink や John Maus の音楽からもインスピレーションを受けています。

Noridogam としては、作曲や演奏だけでなく録音まで一人で担うことも多いですよね。一人で全部をやることの「いちばんの喜び」と「いちばん大変なところ」を教えてください。

一人で作業することは、むしろ他の人やエンジニアと一緒に作業するよりも、僕にとってはずっと自由に感じられます。歴史的に見れば、音楽というものが作曲家・演奏家・エンジニアなど、さまざまな人の手を経て生まれてくるものだということは理解していますが、それでも根本的には、作品が作家自身の手から直接かたちづくられていく――たとえば絵画のような――そんなスタイルで音楽に向き合いたいと思っているからです。

その感覚には、韓国画を専攻し、特殊メイクアーティストとしても活動していた父の影響が大きいと感じています。そうした背景もあって、一人で作業することで得られる自由さや、そのプロセスが経験として自分に返ってくる時間は、僕にとってとても貴重なものになっています。

撮影:Hayato Watanabe

一方で、一人で作ることは、僕自身のさまざまな側面を音楽に詰め込むにはとても適している反面、表現や発想の限界にもぶつかりやすいという側面もあります。そこで、3月17日にリリースされるアルバム 『Truthbuster』 では、今回のツアーにも参加してくれているミュージシャンの友人たちと一緒に録音を行いました。そのことで、これまでより少し複雑で多彩な色合いが音楽に加わったのではないかと思っています。

Noridogam の楽曲には、日常のごく小さくて壊れやすい瞬間が切り取られているように感じます。そうした瞬間は普段どのように集めていますか? そして、どのタイミングで「これは曲にしよう」と決めるのでしょうか。

時間があるときはいつもギターを手に取ったり、メロディを口ずさんだりしています。そのときに自分の中で「いいな」と感じるものが生まれたら、スマートフォンの録音アプリに残しておき、あとから改めて聴き返します。何かの状況や考えごとが強く印象に残ったときには、メモ帳に書き留めておくことも多いです。

そう考えると、日々の暮らしの中からふと湧き上がる「突然の思いつき」こそが、僕の音楽にとってとても重要な要素になっているのだと思います。ときどき、自分の曲は随筆のようなものに近いと感じることもあって、だからこそ、はっきりと言葉にできない印象や物語の断片のような感覚が、よく登場するのかもしれません。

「これはこういう考えだ」と明確に定義するというよりは、「そのとき、なんとなくこういう気分だった」という感覚そのものを記録として残して、人と分かち合いたい――僕の音楽は、そんな思いから生まれているところが大きいと思います。

“Truthbuster the Tour” では、ソウル・東京・大阪を回ることになります。このツアーで Noridogam のライブを本当に体感するために、観客にはどんなところに注目してもらいたいですか。

今回のツアーでは、お客さんにもっと強い「近さ」を感じてほしいと思っています。ここで言う近さは、物理的な距離としての近さでもあり、自然体で自由な雰囲気の中で、音楽が鳴っているステージや、演奏者が手にしている楽器、そして僕とメンバーたちのアンサンブルから生まれる瞬間が、より直接的に伝わるような感覚のことです。

僕自身がほかのミュージシャンのライブを観るとき、「本当に良い」と感じるのもまさにその部分なので、その感覚をできるだけストレートに届けたいという気持ちが大きいです。

ツアーの中でも、とくに [CITY / DATE] の公演についてはどのようなイメージを持っていますか。他の日程と比べて、セットリストや会場の使い方、雰囲気づくりの面で意識していることがあれば教えてください。

まずソウルでの公演は、相対的に少し長めのランニングタイムになる予定なので、できるだけ多くの曲を演奏しようと考えています。

東京と大阪については、会場の特性もあり、それぞれのライブがインターミッションを挟んだ二部構成になります。そのため、可能な限りたくさんの曲を演奏しながらも、第一部と第二部が自然につながっていくような構成を現在準備しているところです。

さらに、Blue Note Place と Blue Yard は、一般的なライブハウスとは少し異なる形態の会場なので、ステージと客席の呼吸の距離が、より近く感じられるのではないかと楽しみにしています。

Silica Gel として、すでに海外でのライブやフェスにも出演してきました。そうした海外公演の経験は、Noridogam としてのものの見方や音楽の作り方にどのような影響を与えていますか。

海外での公演を重ねるなかで、「ライブ」というものはミュージシャンが持ちうる最も強力な武器のひとつだと感じるようになりました。僕自身も音楽ファンとして音源を聴くことは大好きですが、目の前で演奏が行われるステージほど、その人たちの音楽が強烈に伝わってくる場面はなかなかありません。

だからこそ Noridogam の音楽を作るときには、「この曲がステージ上でどう演奏されるか」というイメージと、「音源としてどこまで表現を拡張できるか」という二つのバランスを常に意識しています。前者を優先すると、編成はよりシンプルな方向に向かいやすくなりますし、後者を追求すると、アレンジの中でさまざまな楽器をオーバーダブしていく方向へと向かっていきます。

日本でのライブや、日本のリスナー/メディアからのリアクションを通じて、Noridogam の音楽と日本のオーディエンスとのあいだに、どのような「つながり」や相性を感じていますか。

Noridogam として日本でライブをする機会は、まだそれほど多くはありません。だからこそ、これからもっと交流を重ねていく必要があると感じていますが、少なくとも韓国と日本では、ライブの楽しみ方にいくつか違いがあると感じています。

もちろんすべての人に当てはまるわけではありませんが、韓国のオーディエンスは「強いファンベース」として会場に足を運んでくれる人が多い印象があって、そのぶん熱量の高い空間になることが多いです。一方で日本での経験からは、年齢や性別を問わず、「ライブハウスという場所そのもの」を目指して来ている人がかなり多いと感じました。

この違いがあるからこそ、Noridogam のライブを「今回初めて観る」という方もきっと多いのではないかと期待していますし、そういった方々に良い印象を残したいという気持ちがとても強いです。きっと日本の音楽ファンの皆さんにも、Noridogam のスタイルを好きになってもらえると感じています。

いまの Noridogam という存在を理解するヒントになりそうな、本・映画・ゲーム・場所などがあれば教えてください。

僕はゲームが本当に好きで、日本のゲームやIP、マンガもとても好きです。最近は、岩明均先生(『寄生獣』『ヒストリエ』で知られる)の『七夕の国』という作品を、改めて読み直しました。もともと大ファンなので、何度も繰り返し読んでしまいます。

バンドとソロ、そのどちらの活動においても、自分の中で決めている「ルール」や、いつも心がけている小さな習慣があれば教えてください。

僕は考えごとが多い性格で、子どもの頃から極端に計画を立てて、長い時間をかけて準備をするタイプでした。そういう性格には、さまざまなことを事前に想像して備えられるという長所がある一方で、実際に行動に移すのがあまり得意ではなく、そのせいでタイミングを逃してしまった記憶もたくさんあります。

だからこそ、大人になってからは「考えすぎるより、まずは行動してみて、そのあとに起こるさまざまなハプニングには素早く対応していこう」と自分に言い聞かせるようになりました。それが、いまの僕にとってとても大切なモットーになっています。

最後に、日本のリスナーや、このインタビューをきっかけに初めて Noridogam を知る方々へメッセージをお願いします。

かなり長いインタビューになった気もしますが、日本の音楽ファンの皆さん、そしてこれまで Noridogam を知ってくれていた皆さんの疑問が、少しでも解消される内容になっていたらうれしいです。

今回このインタビューをきっかけに初めて出会ってくれた方には、これまでの曲はもちろん、これからリリースされるシングルや、3月17日にリリースされるアルバムもぜひ楽しみにしていてほしいです。ストリーミングサービスや、日本でのライブ会場でまたお会いできることを楽しみにしています。本当にありがとうございます。

タイミングを逃すまで考え込みすぎるのではなく、まず一歩を踏み出し、その先で起こる出来事に素早く応えていくこと。今回のインタビューでキム・チュンチュが語ってくれたそのモットーは、Noridogam の作品やステージから立ち上る、静かでしなやかな熱ともどこか地続きのものに感じられる。これから届けられる新しいシングル群、そして3月17日にリリースされるアルバム 『Truthbuster』。遊び図鑑のページをめくるような気持ちで、そのひとつひとつの瞬間を日本のリスナーにも丁寧に味わってもらえたらうれしい。