
THE LUV BUGS × 窓辺リカ:ネットカルチャーと「バグ」が交差する『bootleg wonderland』
画一化されたヒットチャートの裏側で、密かに蠢き、圧倒的な熱量を放つ「バグ」のような才能たち。メインストリームの枠には決して収まらないアーティストをフックアップするプロジェクト「THE LUV BUGS」から、強烈な異彩を放つ新曲『bootleg wonderland』がドロップされた。
Aphex Twinや平沢進の美学を受け継ぎ、2ちゃんねるの「洒落怖」や深層ウェブといったインターネットの深淵を原風景に持つ「窓辺リカ」とは、一体何者なのか。規格外の才能が交差して生まれたコラボレーションの裏側と、消費スピードの速い現代のネットカルチャーをサバイブするための、極めて特異で純度の高いフィロソフィーを紐解いていく。
まず「THE LUV BUGS」というプロジェクトについて伺わせてください。リスナーにどのような体験、あるいは“バグ”を届けたいというコンセプトなのでしょうか?

malo:遡ると、僕は元々ヒップホップやハウス、テクノ、トランス、ドラムンベースといったダンスミュージックのシーンにいて、そこからたまたまメジャー第1号のボカロPであるlivetuneを担当することになった経緯があります。当時のヒップホップやダンスミュージック、そして初期のボカロシーンは、今のようにメジャーなものではなく、音楽業界から見れば「何これ?」と思われるようなサブカルチャーでした。
THE LUV BUGSのコアメンバーも、そういった出自の人間です。だからこそ、今はメインストリームにいなくても、グローバルに通用する才能や、個性的な音楽を作る若い人たちとご一緒したいという思いが根底にあります。ヒットチャートを狙ったポップスではなく、独自のこだわりや純度を持って音楽を突き詰めている人たち。僕らはそうした方々を、良い意味で「バグ」と定義しています。
今回、数ある才能の中から窓辺リカさんとTORIENAさんを起用されたのはなぜでしょうか?
malo:一言で言うと、窓辺さんの音源を聴いた時に「ヤバいな」と思ったんです。こんなに狂っていて個性的な曲を作る人がいるのかと。理屈ではなく、アルバムを通して聴いて本当に“バグってる”と感じて、最初にお声がけしました。
ただ、サウンド的にも普通の人が歌いこなすのは難しい楽曲です。そこで、僕らとも関係値があり、自身もVRChatなどのメタバース空間で活動していて、尖ったエッジを持つTORIENAさんなら、この世界観を成立させられるんじゃないかと考えました。さらに、MVを作ってくれた異次元TOKYOの篠田(利隆)監督も窓辺さんの楽曲が大好きで。お互いのリスペクトが掛け算になり、作品の強度がグッと上がりましたね。
Aphex TwinとVTuber文化から生まれた「窓辺リカ」の美学
ここからは窓辺リカさんにお話を伺います。改めて「窓辺リカ」というお名前の由来を教えていただけますか?

窓辺リカ:イギリスのアーティスト、Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)の『Windowlicker(ウィンドウリッカー)』という曲が由来です。「Window(窓)」と「Licker(リカ)」ですね。
ただ、Aphex Twinが特別好きだからというよりは、あの曲の成り立ちに影響を受けています。彼のように田舎で自分の好きな世界観を突き詰めてきた人間が、いざ一般層やメディアに向けた時に、自分の作風と世間とのすり合わせを行った結果生まれたのが『Windowlicker』だと思っていて。そのバランス感覚や、アーティストとしての出し方がとても美しいなと感じ、名前の由来にしました。
「窓辺」という言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか?
窓辺リカ:最初はVTuberとしてスタートしようとしていた背景があります。当時の初期VTuber、例えば鳩羽つぐさんや月ノ美兎さんのように「漢字+カタカナ」の組み合わせで、苗字にコンセプトを象徴する文字が入っている名前が多かったんです。「Window」から連想して、窓に付随する世界観がパッと浮かぶ日本語を探した結果、「窓辺」に落ち着きました。
アーティストとしての立ち位置や、目指している姿はありますか?
窓辺リカ:目標にしているのは平沢進さんですね。P-MODELなどのバンド時代から現在に至るまで、何のジャンルに縛られることもなく、ずっと「平沢進」であり続けている。自分の好きなことを追求し続け、それにファンがついてくるという、誰にも似ていない独自の存在でありたいとずっと思っています。
ライブではブラウン管テレビをいくつも並べて投影したりするんですが、コンセプトとしては『serial experiments lain』の主人公・玲音のような、電子世界にいるミステリアスな少女をイメージしています。人間というものは自分自身でキャラクターを決めるのではなく、他者からの印象の集合体で像が決まると思っています。見る人によって全く違う見え方になるような、実体のつかめない「電子の歌姫」を意識しています。
深層ウェブ、洒落怖、SF映画が織りなす『bootleg wonderland』の世界
今回の楽曲『bootleg wonderland』は、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?
窓辺リカ:私は基本的に、世界観から先に作ることが多いんです。「不思議の国のアリス」と「深層ウェブ(Deep Web)」「マルウェア・海賊版ソフト」という、全く離れた2つのモチーフを合体させるところからスタートしました。異次元TOKYOの篠田監督が手がけたMVも、学校のパソコン室という唯一インターネットに接続できる場所を舞台に、その世界観を見事に落とし込んでくれています。
歌詞も「道化師街のID」など、専門用語や衒学的な言葉の羅列が非常に印象的です。
窓辺リカ:深層ウェブって、存在は知っていても実際に触れたことがある人は少ないですよね。だからこそ、訳の分からない単語がいっぱい出てきた方が雰囲気が出るなと。自分の記憶にある深層ウェブやマルウェアに関する専門用語を片っ端から集めて、マザーグースやアリスの世界観と合体させました。
サウンド面で特にこだわった部分はありますか?
窓辺リカ: 2番に入って少し経った「反重力実験」という歌詞のあたりで、ものすごい低音を鳴らすパートがあるんですが、あそこは楽しく作りましたね。海外のネットで流行ったホラー系のミーム音があって、「この音はどうやって作ってるんだろう?」と調べてみたら、ドアを開け閉めする軋む音のピッチを極端に落として作られていたんです。それを真似して、変な位相をかけて変態的な音を作りました(笑)。音楽そのものよりも、そういったASMRやネット上の音から影響を受けることが多いです。
音楽以外のカルチャーだと、どういったものを通ってこられたのでしょうか?
窓辺リカ:自分の核になっているのは「2ちゃんねる」ですね。特にオカルト板の「洒落怖(死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?)」の雰囲気が大好きで。顔も分からない人間同士が、深夜に変な距離感で陰湿なことをし続けているネット特有の怖さ。あの空気感は自分の曲にめちゃくちゃ影響を与えています。
あとはSF映画も好きです。クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』そしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』など、高次元や多次元解釈をどう表現するかという作品に惹かれます。
今のネットカルチャーは消費スピードが非常に早いですが、その点についてはどう感じていますか?
窓辺リカ:*私は今のファストフード的なスピード感も面白いと思っています。次々と新しいものが消費される一方で、昔のものが急に発掘されて跳ねることもありますよね。例えばWitch House系のCrystal Castlesが、Phonkの流行に乗って急に再評価されたり。
流行りのサウンドを無理に研究しなくても、自分の好きなことを追求し続けていれば、このカオスなスピード感の中で突然フックアップされるタイミングが来る。アーティストにとっては、自分の好きなことをやり続けやすい良い時代になったと思っています
廃校でのMV撮影で起きた「シンクロニシティ」
最後に、今回のコラボレーションを通じての感想をお聞かせください。
窓辺リカ: THE LUV BUGSのコンセプトを聞いた時に、デジタルグリッチを多用した、一瞬で「なんだこれは」と違和感を抱かせるような楽曲を作ろうと思いました。自分が普段やっていることとベクトルが近かったので、かなり羽を伸ばして自由に制作できました。maloさんをはじめ、皆さんが100%の力を出してくれて、奇跡的なバランスで完成した作品だと思います。
malo:窓辺さんの「流行りを追うのではなく、純度や強度の高い自分の芯を持った世界観を作る」という姿勢は、まさにTHE LUV BUGSが求めていたものでした。
実はMVの撮影で、埼玉の秩父にある廃校に行った時のことなんですが……音楽とは全く無縁の廃校の教室の入り口に、なぜか窓辺さんの名前の由来であるAphex Twinの『Windowlicker』のジャケットのコピーがポツンと貼ってあったんです。あれには「導かれた!」と鳥肌が立ちました。
窓辺リカ:*本当に面白すぎましたね。しかも本物のポスターじゃなくて、ただのコピーが許可もなく貼られているというアウトロー感。
まさに今回のプロジェクトのコンセプトを体現するような、運命的なエピソードですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。