今回はJames Alynに、彼のアルバム『2019』について話を聞いた。この作品は、生活の変化、サウンドの変化、そしてクリエイティブの方向性の変化によって形づくられている。制作面での苦労や歌詞へのこだわり、日本の音楽への愛情からアニメにまつわる記憶まで──『2019』は、Jamesが自分自身を少しずつ更新していく、その軌跡だ。

『2019』というタイトルに込めた意味
Q: アルバム『2019』をひと言で表すなら?

James: 「変化を受け入れる」って言うと思う。変化って好きじゃない人もいるけど、2019年って世界全体が大きく動いた年だったよね。自分にとってもキャリア面ですごく大きな転機だった。だから伝えたいのはこういうこと。何が起きても前を見て、その変化はきっと良い方向に向かっていくって信じてほしい。
ソングライティングと制作面での苦戦
Q: アルバムの中で一番仕上げるのが大変だった曲は? 最終的にどうやって完成させた?
James: 間違いなく“Walk Out the Door”だね。初期の段階から作っていた曲なんだけど、まだ自分たちのサウンドを模索している途中で。シンセもギターもレイヤーを重ねまくって、質感をいろいろ重ねた結果、逆に曲全体がうるさくなっちゃった。それを救ったのは「削る」ってこと。要素をかなりカットして、本当に必要な音だけ残した。それで最終的にちゃんとまとまったんだ。
Q: 曲を作るときは、メロディから? 歌詞から? それとも別のところから始めるタイプ?
James: 本当にその時次第。メロディから始まることもあるし、コンセプトから始まることもある。トラックとかビートから入ることもあるし。曲ごとにやり方が違うんだよね。
Q: 逆に、いちばんスムーズにできた曲は?
James: “Now and Ever”。最初のシングルなんだけど、これはすごく早く形になった。最初から目指しているイメージが明確で。ビートルズっぽい感じ、60年代っぽい感じで、あのクラシックな音を出すためにHofnerのベースを使ったんだ。アレンジもほぼ一発目でもう「これだな」ってなった。
アルバム全体の流れとアイデンティティ
Q: トラックリストは最初から想定して作っていった?

James: いや、特定の順番で曲を書いていったわけじゃない。まず全部の曲を作り終えてから、あとで自然に流れるように並べた。前半はシティポップ寄りで、後半は60年代っぽいというか、アコースティック寄り。だから、その雰囲気ごとにまとめる形にしたんだ。
Q: アルバムはジャンルをまたいでるよね。その中で一番コアになってる“自分らしさ”ってどこ?
James: 歌詞とメロディと自分の声、かな。ジャンル的にはいろいろやってるんだよね──シティポップもあれば、スローダンスっぽい曲もあるし、インディーロックもある。でも、自分の書き方とか歌い方が、全体をちゃんとひとつにしてくれてる気がする。
音楽的ルーツと日本のアーティスト
Q: あなたのルーツってどこにある?
James: やっぱりビートルズ。それは間違いないね。シティポップも大好き。最近はWave to EarthとかDaniel Caesarもよく聴いてる。自分のサウンドにそれがそのまま出てるかはわからないけど、すごくインスピレーションは受けてる。
Q: さっきSIRUPの名前を挙げてたよね。日本のアーティストだと彼が一番好き?
James: うん、間違いなく好きな一人。声も好きだし、いろんなジャンルを混ぜる感じもすごい。誰かとコラボしてる時でも、ちゃんとSIRUPの色が残ってるよね。そこにすごく共感する。自分もソウルっぽい音が好きだし、あのチャーチっぽいネオソウルの雰囲気も好きで。だから“I’m Blessed”はああいう感じになったんだと思う。
Q: 日本のカルチャーからの影響って、他にどんなところにある?
James: シティポップは本当に大きいよね。それと、アニメの音楽が好き。特に『進撃の巨人』のテーマとか。そして藤井風はすごくリスペクトしてる。彼はタイでもめちゃくちゃ人気で、ずっと進化し続けてるところが本当に刺激になる。
アニメと子どもの頃の記憶
Q: アニメの話が出たから、そのまま聞きたい。好きな作品は?
James: 今ハマってるのは『ヴィンランド・サガ』『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『Solo Leveling(俺だけレベルアップな件)』。子どもの頃は『ナルト』『遊戯王』『ポケモン』を観てた。ゲームボーイでは『ポケットモンスター 金・銀』をやってたよ。
日本でのライブとファンとの時間
Q: 日本に来たとき、特に記憶に残ってることは?

James: ファンだね。すごくあたたかく迎えてくれたのが忘れられない。前回来たときは川崎チッタでライブをしたんだけど、あんまり街は見て回れなかったんだよね。そのあと、プライベートでまた来て、渋谷や原宿に行ったり、ディズニーランドやユニバにも行った。だからまた近いうちに戻りたい。次は絶対に楽器屋さんに行く。ギターとかシンセとか、いろいろ見たいんだ。
ビジュアルで語るメッセージとポジティブさ
Q: “What You Waiting For”のMVは強いメッセージを持ってるよね。あの映像はどんなコンセプト?
James: 伝えたいことはシンプルで、「全力で生きよう」ってこと。ビデオの中ではいろんなものが燃えてたり、すごくカオスなんだけど、そこにある感情は「過去とか未来のことを心配しすぎないで、いまをちゃんと楽しもうよ」っていうメッセージなんだよね。曲を聴いた人にもそう感じてほしい。
Q: ポジティブさって、あなたの歌詞にいつも通ってるテーマ?
James: そうだね。自分は、音楽を通して世界をちょっとでも良くしたいって思ってる──3分ずつでもいいから。自分の曲を聴いたあと、少しだけでも気持ちが軽くなったり、ちょっとハッピーになってくれたら嬉しい。
初めて聴く人へのおすすめと、これから
Q: はじめてあなたの曲を聴く人に「これから聴いてほしい」っていう1曲があるなら?
James: “Show Me Your Love”。明るいし、どんな気分のときにも合う曲。最初の1曲としてすごくいいと思う。聴いてくれる人に、とにかく「愛」を感じてほしいんだよね──で、できればその愛をちょっと返してくれると嬉しい(笑)。
Q: コラボしたいアーティストを3組だけ挙げるとしたら?
James:
- PREP – 彼らの新しいアルバムを聴いたばかりなんだけど、ぜひ一緒に何かやりたいと思った。
- Paul McCartney – これはもう夢の話なんだけどね。ちょっとぶっ飛んだことを一緒にやってみたい。例えばシティポップをPaulと一緒にやるとか、ヒップホップとか。なんでもアリでやってみたい。
- SIRUP – また一緒にやりたい。もうコラボしたことがあるんだけど、いつでもまたやりたいと思ってる。
Q: このあと予定しているリリースやプロジェクトはある?
James: あるよ! 今まさに新しいものを作ってるところ。あまり言いすぎたくはないんだけど、新しいサウンド、新しいアイデアをいっぱい試してる。みんなに聴かせるのがすごく楽しみなんだ。
日本のファンへのメッセージ
Q: 最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
James:
日本のみんなへ。本当にありがとう。
僕の曲を聴いてくれて、一緒に歌ってくれて、応援してくれてありがとう。
日本に行ったとき、すごく歓迎されて、すごく刺激を受けたんだ。
今は特別な作品を準備していて、早くそれを届けに戻りたいと思ってる。
すぐにまた会おう。
『2019』を通して、James Alynはただ振り返るだけじゃない。むしろ、自分をリセットしていく。変化をどう受け止めるか、影響をどう重ねるか、そしてときには余計なものをそぎ落とすか。そのすべてのなかでも、彼のソングライティングはいつもある種の「ケア」に立っている。聴く人へのケア、この瞬間へのケア、そしてこれから訪れるものへのケア。その上で、もしそこに愛や、ちょっとした火花があるなら──彼はそのど真ん中で歌ってくれるはずだ。