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INTERVIEW | Sion 直感で作り直すポップ——『eigensinn』が示す、いまの輪郭

今回のインタビューでSionは、なぜいまeigensinnが必要だったのかを語ってくれた。燃え尽きが何を露わにしたのか、電子音楽とハイパーポップがどう“いちばん正直に”自分を立て直せる場所になったのか、そして最も激しく荒々しいテクスチャーの中でも「organic」がなぜ譲れないのか。夜の崖のイメージから、Porter Robinsonのフォーリーがもたらす温度感、東京の“調和”から近藤浩治のクラフトまで。Sionは、腑に落ちた瞬間を手がかりに、この作品の輪郭を辿っていく。

まず、初めてあなたに出会う人に向けて。「Sion」をひとことで表すなら?

Sion: Sionは、常に変化し続けるアーティストです。

今回のサウンドの変化は、とても意図的に感じます。なぜいまこの方向へ? そして前作までと比べて、いちばん決定的に変わった点は?

Sion: 結構大きめの燃え尽きがありました。過去の作品が、もうアーティストとしての自分をちゃんと表していない気がして。自分が主導権を持てていない影響の“結果”みたいになっていたというか、コントロールできていなかったんです。
だからこそ、自分が本当に好きで、心から共鳴できるものを見つけ直す必要があると思いました。それが電子音楽とハイパーポップでした。日本のエレクトロニック・ミュージック・シーンを聴いて、ポップを自分たちの感覚でいじって、面白いテクスチャーにしていくやり方に惹かれて。
特定のジャンルやスタイルを「これをやりたい」と思えたのは、初めてだったんです。だから、そのまま直感で進みました。この作品も同じで、直感的で、少しクセがあって、楽しい。でも、これまでの自分の“メロディの強さ”はちゃんと残しています。

この作品が鳴っている“場面”を想像すると、どんな景色が浮かびますか? 朝か夜か、場所は?

Sion: このアルバムは、夜がいちばん似合うと思います。山の上、もしくは崖の上みたいな場所。エモーショナルな瞬間と、踊れる瞬間が変なバランスで混ざっている感じが、その景色に一番フィットする気がします。

ジャンルが変わっても、ぶれない“核”があるとしたら? 3つの単語で表すと何になりますか。さらに、その核が最もはっきり出ている曲は?

Sion: ディテール、ハイブリッド、オーガニック。
僕はクラシックの音楽家としてスタートしているので、昔から音楽の細部を分析し続ける環境で育ってきました。それがそのまま自分の音楽にも出ていると思います。ハイパーポップはすごく荒いジャンルでもあるけど、この“細部に意識が向く癖”からは逃れられないし、正直それでいいとも思ってます。
これまでR&B、ヒップホップ、バラード、クラシック、ジャズ……いろんなジャンルをやってきたので、いまはもう血の中に「混ぜて、崩して、また組み直す」感覚がある。ジャンルをハイブリッドさせることが自分にとって自然なんです。
それと、僕はヘッドホンで音楽を聴くときも、ノイズキャンセリングを使わないんです。周りの空気と一緒に“呼吸している”感じで聴きたい。音楽は自分にとってオーガニックなもので、作品にも必ず何かしら“生っぽさ”を入れたいと思っています。
その3つが一番出ているのは「homes」です。ポップ、ロック、フォーク、ハイパーポップのハイブリッドで、曲全体にオーガニックな質感があって、誰も気づかないようなディテールを何週間もかけて調整しました。

初めて聴く人が「いまのあなた」を理解するために、1曲だけ選ぶなら? そして、その曲を象徴する瞬間(タイムスタンプ付き)を教えてください。

Sion: それなら「avoid2」です。この曲は1週間で作りました。過去作とは全然違う体験で、考えすぎずに、その瞬間に浮かんだ小さなアイデアを全部活かしていった感じでした。
アンビエントなイントロから始まって、EDMのビルドアップに入って、そこからレイジのドロップに切り替わって、次はハードスタイルとフォンクのハイブリッドのドロップ、最後にリディムのドロップへ向かっていく。ジェットコースターみたいな曲です。
特に、レイジのパートとフォンクのパートの間に、ビルドアップもブレイクダウンも挟まらずに切り替わるところが、この曲の“バカみたいに直感的”な感じを一番表していると思う(1:40)。いまの自分はまさにそれで、バリエーションがあって、楽しくて、電子音楽にいる、という感じです。

この作品に直接影響を与えた“参照点”はありますか? 曲やアーティストなど。そこから何を取り入れましたか?

Sion: 影響を受けたアーティストは本当にたくさんいます。Porter RobinsonのアルバムNurtureは、いまでも自分にとって“教科書”みたいな存在で、テクスチャーやフォーリーをどう使えばトラックがもっとオーガニックで、生き生きしたものになるのかを学ぶために、何度も立ち返っています。


peterparker69からは、ボーカルをもっと遊ぶ発想をもらいました。ピッチシフトしたり、ステレオイメージを曲げたり。ほかにも本当にいろいろあります。

東京で過ごす中で、いちばん心に残っているカルチャーの側面は何ですか?

Sion: 東京には、自己表現と文化の継承のバランスがあるところがすごく好きです。いろんな視点を持つ人たちが、お互いの考え方をちゃんと尊重しているのが面白い。より表現的な人たちも古い価値観や文化を認めているし、多くの人が“自分を表現すること”そのものを美しいものとして捉えている。
そういう感覚は、世界のいろんな場所では欠けていると思います。調和ですね。

いま特に注目している日本のアーティストがいれば、ひとり挙げてください。記憶に残っている具体的な場面(曲やライブ)も一緒に。

Sion: 去年、WWWの年末パーティーでlilbesh ramkoがパフォーマンスしていたのを観ました。もともと音源も大好きだったんですが、ステージでのエネルギーとデリバリーが本当に衝撃で。
自分の曲をリミックスして、観客を驚かせる感じとか、音に合わせた身体の動かし方とか、全部が刺激になりました。そこから自分のライブの仕方にも影響しています。

もし東京のクリエイターと1日過ごして何かを作れるなら、誰と何をしたいですか?

Sion: 近藤浩治さんと1日過ごしてみたいです。ゲーム音楽が大好きで、いつか自分もゲーム音楽の作曲家として仕事をしたいと思っているので。どうやって楽曲を作っているのか、その制作の現場を見て学びたいです。

eigensinnの“聴き方ガイド”をお願いします。入口になる2曲→深掘り向けの1曲。さらにそれぞれ、好きな「1秒」の瞬間(タイムスタンプ付き)も。

Sion: 入口になる曲は「holdon」「homes」だと思います。どちらもポップの構造がすごく分かりやすいので、EPの中でも他の曲より飲み込みやすい。
「holdon」はエレクトロポップの要素がある、いわゆるバンガーで、EDMやポップが好きな人には刺さると思います。特に最後のコンプレクストロのドロップが好き(1:45)。
「homes」はロックポップ寄りで、作品の中でも一番とっつきやすい曲だと思う。2番のヴァースが、2000年代のポップロックを思い出させて好きです(1:51)。
深掘り向けは「avoid2」。さっきも言ったけど、とにかく遊びながら作った曲で、いわゆる“構成”はあまりないです。各パートを次のパートより強くしたい、みたいな感じで、自分のドーパミン受容体を刺激することだけを考えていました。最初の一回では消化が難しいかもしれないけど、ハイブリッドな音楽やサウンドデザインが好きなら、絶対にハマると思う。最後のリディムのドロップは、グルーヴが変で最高(2:41)。

音だけでは伝えきれない感情を、ビジュアルが補っている瞬間はありますか? ジャケット、写真、MVの1カットなど。

Sion: 小さなバンの中で撮ったライブパフォーマンス映像があって、DJコントローラーでプレイしながら、声にはオートチューンをかなりかけて歌いました。
その場の楽しさとか、即興っぽい瞬間があることで、この作品のカオティックな感じが、音だけで聴くよりも強く立ち上がると思います。

いまのファッションのムードは? 色、シルエット、質感。ステージやアートワークとのつながりはありますか?

Sion: 数年前までは、ファッションにかなりハマっていて、面白いピースを組み合わせたり、いろんなブランドのヴィンテージアーカイブを掘ったりしていました。いまはほとんど真逆です。
基本的には、着ていて楽なもの。ライブや制作のときに動きを邪魔しないものを選びます。スタイルはもっと“居心地のいい”、落ち着いた方向になりました。
それでも、快適さの中に何かしら“遊び”があるものを選びがちですね。

最後に。いま一番お気に入りの服は? その理由も。

Sion: 最近はフード付きのジップアップフーディをよく着ています。着るのが楽だし、フードがあると少し安心できるんです。
いま一番のお気に入りは、GB Mouthっていう日本のブランドのジップアップフーディですね。