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インタビュー:ผ้าอ้อม99999——文脈なき「JUNK POP」が肯定する、ネットの深淵とバイト生活のリアル

最近ではタイのインディーシーンとも共鳴し、独自の「ジャンク・ポップ」を掲げて躍進するバンド・ผ้าอ้อม99999。2023年の「閃光ライオット」で強烈なインパクトを残し、ネットカルチャーとリアルな日常をカオスに繋ぎ合わせる彼らの正体に迫る。

 -まずはバンド名の由来から伺わせてください。ผ้าอ้อม99999という名前は非常にユニークですが、どのような経緯で決まったのでしょうか

ผ้าอ้อม99999: 閃光ライオットに応募した時、普通の名前では審査員が見ないと思ったので、差別化を図ろうと思って日本語か英字以外でつけようと僕が言い出したんです。その時にアラビア語かタイ語かで迷って、自分がタイ料理が好きなので「有名になってタイでライブできるんじゃないか」という妄想込みでタイ語にしました。最初は意味なく、字面と語感で選んでいます。

その後、実際にタイの音楽フェス「Maho Rasop」への出演など、現地シーンとの繋がりも生まれています。名前がきっかけでタイ文化へと接続されたタイミングはあったのでしょうか。

ผ้าอ้อม99999: 最初は目立ちたかっただけですが、「閃光ライオット」が終わったら解散するつもりでした。でも、バンドを続けていこうと思ったタイミングで「ちゃんとタイのカルチャーを学んで、現地のシーンと繋がっていけたらいいな」と真面目に考え始めましたね。現地の人がこの名前を面白がってくれたのかは正直よく分かっていないですが、最初のインパクトと演奏があった上で選んでもらえたのかなと思っています。

意味が変わり続ける運動体。「ジャンク・ポップ」の真髄

-自身のジャンルを「ジャンク・ポップ」と称し、「散らばった色んな断片を肯定的に飲み込む」と表現されています。その「肯定」のあり方について詳しく教えてください。

ผ้าอ้อม99999: 今のネットカルチャーは循環のスピードが速くて、一つのミームをとっても文脈やルーツを理解しないと追いつけない。その文脈自体もどんどん書き換えられて、忘れられていくものだと思うんです。

僕らがジャンク・ポップというスタイルで大事にしているのは、そういう移ろい続ける、壊れていくような文脈そのものを楽しむことです。文脈が失われることを嘆くんじゃなくて、風化したり崩れたりしていく過程そのものを享受する。ルーツを否定するのではなく「意味が変わっていく運動体」としてのミームに惹かれている、ということですね。

-ネットミームやMADからの影響も公言されていますが、そもそもどのようなものを見て育ってきたのでしょうか。

ผ้าอ้อม99999: ゲーム禁止の家だったので、中3で手に入れたノートパソコンでずっとインターネットを見ていました。ニコニコ動画や2ちゃんねるのまとめサイト、あとは『ケロロ軍曹』や『銀魂』のような、オマージュありきのアニメがすごい好きで。その元ネタを調べることをずっと今に至るまでしています。リミックスみたいなものを聴いてから原典を調べるという、邪道な辿り方をしてきた感じですね。

実生活のストレスを飲み込む、情報の過密とリアリティ

 -音楽的なルーツについても伺いたいのですが、どのようなアーティストに影響を受けてきたのでしょうか

ผ้าอ้อม99999: 小学生でサカナクションを聴いて電子音楽に興味を持ちました。その後はDALLJUB STEP CLUB(ダルジャブ・ステップ・クラブ)ですね。クラブサウンドをバンドでやるのに、歌詞が「やよい軒の歌」だったりする俗的なギャップに惹かれました。SUSHIBOYSやどんぐりずのように、トラックがハードなのに歌詞はふざけているものからも影響を受けています。

 -楽曲制作のプロセスについては、コンセプトを先に決めるのでしょうか。

ผ้าอ้อม99999: トラックを先に作ることが多いです。「この音ならこういうのを連想するから、このテーマにしよう」と。たとえば「忙忙忙ー忙、忙忙忙」は、僕がフリーターでバイトが忙しくてしんどかった時に「忙しない曲だし、バイトの苦しみをテーマにしよう」と作りました。怒られたりした「しょうもないリアル」ですけど、それが結果的にヒップホップ的に作用したのかもしれません。

閃光ライオットの勢いから、砂漠の巨大ステージへ

-「閃光ライオット」から現在に至るまで、バンドとしての野心にはどのような変化がありましたか?

ผ้าอ้อม99999: 閃光ライオットの時はコロナ以降初めての開催で、年齢制限が23歳まで引き上げられたこともあり、最高年齢のやつを集めて勢いで優勝できたらいいな、くらいの感覚でした。でもインターネットで反応をもらえてから、野心がだいぶデカくなりましたね。今の目標を端折って言うと、コーチェラ(Coachella)に出たい。めちゃめちゃ出たいです。

-伝説的エンジニアのIllicit Tsuboi(イリシット・ツボイ)さんとの作業はいかがでしたか。

ผ้าอ้อม99999: 僕の作るトラックはとにかく音数が多いのですが、ツボイさんが「何を残し、何を削るか」という勇気ある選択をしてくださったおかげで、ジャンクさとポップさのバランスが上手く取れた。良い化学反応が起きた印象です。

意味の不在を愛でる。栗松ミームが象徴する「ジャンク」

-ビジュアル面でも、3Dアニメーターなど外部のクリエイターと連携されているかと思います。どのようにビジュアルを組み立てているんですか?

ผ้าอ้อม99999: 打ち合わせはもちろんしますが、特定のワードを決めるよりは、最近見て面白かったミームや好きなカルチャーの話をしている時間の方が多いです。

-ちなみに最近、特に印象に残っているミームはありますか?

ผ้าอ้อม99999: 言える範囲だと、海外で作られた『イナズマイレブン』の栗松が雑にコラージュされているミームですね。

ผ้าอ้อม99999が描き出す、混沌と肯定のポップミュージック。それは、無数の情報の断片を飲み込み、新たな文脈へと昇華させる現代的な儀式のようでもある。彼らの視線は、横浜のバイト先から、砂漠の巨大なステージへと真っ直ぐに向けられている。